吹き溜まり

成れの果ての降り積もる場所

【エルデンリングDLC・二次創作】歌う翼の貴婦人たち【翻訳記事】

皆様ごきげんよう、前回の記事からは明けましておめでとうございます。寒のもどりの激しいこの頃ですが、いかがお過ごしですか。今回の記事は中々出る気配のないエルデンリングのDLCを想像し、4ヶ月をかけてUnreal Engine 5で創造したEugenia Lysaさんの二次創作コンセプトアートと動画の紹介です。これがファンアートの域を超えたとんでもないクオリティの作品で、度肝を抜かれたのでその感動の片鱗を翻訳でおすそ分けしたいと思い、この記事を書くに至りました。動画のクオリティがとても高く、動画の進行と同じ順に翻訳したので、ぜひこの記事と一緒にご鑑賞ください。

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はじめに

歌う翼の貴婦人たち

狭間の地の各所に現れる、歌う翼の貴婦人たちはどういった経緯と来歴でこうなったのでしょうか。後に発売されたデザインワークスでは「老婆蝙蝠」と名前が判明しましたが当時は、歌う蝙蝠、あるいはハーピーなどと呼ばれていました。Lysa氏はSinging Winged Dames(訳:歌う翼の貴婦人)と呼称しています。彼女たちが歌う曲はラテン語で、どこか物悲しい歌詞だと、海外から有志翻訳されているのは有名な話です。

 

このファンアートは、彼女たちの背景や歌詞から着想を得、「祝福された地」とはなんだったのか。そして「醜く異形と化した」来歴について妄想を膨らまし、あったかもしれないDLCを想像し、創造したファンアートです。

原文ラテン語の歌(左)と英語翻訳(右)。赤字の部分は「母性」と「黄金よ(略)」

ここの歌詞で気になる点は2つ、「母」とはなんだったのか、「黄金よ」とは何を為したのかに着目していきます。英語の元翻訳では「母」の部分はmotherhoodとされており、「母性」の意味も持ちます。すなわち「黄金律」が貴婦人たちの「母性」を阻害したものではないかと示唆されます。

では、この情報を元に、過去に遡るDLCが出るとします。

狭間の地のマップの左下、円卓の側の白い雲

https://twitter.com/alfreid17/status/1504943963656298503?s=20&t=E7VF2FXi7rPfIkIF66Mj8Q

雲を取り除いた、まだ見知らぬ地

https://twitter.com/alfreid17/status/1504943963656298503?s20&t=E7VF2FXi7rPfIkIF66Mj8Q

ここでは黄金律を盲目的に信仰する人々はいなく、外なる神である姿なき母と血盟を交わした者たちの島。

母性の彫像

そして、黄金の怒りに触れる前の蝙蝠の姿、貴婦人たちの本来の姿を垣間見えることができるでしょう。

歌う翼の貴婦人と血の貴婦人。啜り泣きの半島やケイリッド、リエーニエなどで見つかる人形の蝙蝠。かつて母はであったが、異形と化した。(上)
プレイヤーは異形となる前の姿をDLCマップの右上、「支度の閨房」で逢えることになる(下)

この島では、歌詞に出てくる「母」と為す事情、それがなぜ「姿なき母」に繋がるのか、謎を紐解いていくことになるでしょう

貴婦人たちの宴

少女ネレンとの出逢い

過去作の傾向としてDLCの物語は新規NPCを通して語られることが多いので、この幻想のDLCでは、「少女ネレン」がその役を担います。過去に飛ばされてすぐ近くの森でプレイヤーは彼女と出逢います。

少女ネレンとの出逢い。
「この森から、出れる方法をご存知ありませんか?」

この森から、出れる方法をご存知ありませんか?

森の霧の瘴気に当てられて、意識が朦朧としているのです....

私は祝祭に選ばれたのですが、このままでは、間に合えそうにありません

あぁ、婆様はお叱りになるでしょう

                          少女ネレン

その後、プレイヤーは森のギミックを解除して霧を突破できることになります。森を抜けた先には廃墟と、側にネレンが佇んでいます

森を抜けた先で出会うネレン
「ああ、貴方は!その節は、ありがとうございます。」

ああ、貴方は!その節は、ありがとうございます。

私としたことが、名乗っていませんでしたね。私はネレン。この春に「選ばれた」者です

どうか、これをお受け取りください 。姉の祝祭の前に、譲り受けたものですが

これしか、貴重なものを持っていないのです

琥珀のタリスマンを入手

姉は、もう城に到達しています

私も、試練に合格すれば、姉と再会して

他の美しい貴婦人たちと、仲間入りするのです!

                          少女ネレン

琥珀のタリスマン

緋色の琥珀で作られ、銀の茨の意匠が施されたタリスマン

人の形を朧げに象っている

 

異端魔術の威力を高める

王配ゴッドフレイの時代、祝祭は絶えた

だが知り得る者たちには、記憶として残っている

                       茨琥珀のタリスマン

儀式村ソレムニスにて

「儀式村ソレムニス」

次に彼女とまた会えることになるのは、儀式村ソレムニス(Solemnis Village)。本動画では解説されていませんが、Solemnisとはラテン語で「一年ごと」「宗教的な」「全ての年で行われる儀式の」という意味があります。

「婆様は姉にそっくりだと言われました」

ああ、貴方は!また会えましたね!

頭に飾った花を見てください、似合いますか?

婆様は姉にそっくりだと言われました

私も、姉のように、試練で強くあろうと思います

                          少女ネレン

エルデンリングの本編を遊んだプレイヤーなら村の雰囲気が「風車村ドミヌラ」と似通っていることに気づくでしょう。しかし、これはミスリード。その根底とあるものは「血」と「茨」の信仰に基づく、「血の儀式」のために集められた人々の集落であることが判明します。

「儀式村ソレムニス」のキャラクターコンセプト

「選ばれた」女性は「血の儀式」に成功すれば城へ入ることが許されるようです。その儀式とは?村の中心に進むことにより、情報が判明していきます

「儀式村ソレムニス」の中央付近

「婆様」と「少女ネレン」

村の中央ではネレンの会話に出てきた「婆様」が、血の盃をネレンに飲ませようとしてます。盃を飲み干した彼女は意識を失い、気絶。そして「婆様」がプレイヤーの気配に気づき、ボス戦が始まります

儀式村の婆

「婆様」を打ち倒すと、ネレンの身体から骨格が変わるような、肉と骨が軋む音が聞こえてきます。その変形に耐え難いように、彼女の残った声帯器官から絶叫が響き渡り、身体を中心に湧き出る赤い波が周りの白い花を赤く染めていきます。

ネレンの身体から湧き出る赤い波によって白い花が赤く染まる

ボス戦:虚飾の失敗作 (Failed Pretendent)

「血の儀式」はネレンを拒み、おぞましい化け物に成り果てた彼女はプレイヤーめがけて襲いかかります。

「婆様」「ネレン」「虚飾の失敗作(ネレンの事後)」

本来は血の儀式を失敗した少女を狩るのは「婆様」の役目。しかしその婆様を倒してしまったプレイヤーは身に降りかかる危機に対処せざるを経ません。

そして無事にネレンを倒したプレイヤーは、重い足取りの中、転移門をくぐることになるでしょう

ネレンを倒したあとに出現する転移門

備えの閨房へ到達

転移門は儀式に成功した少女たちの行く末。そこは、「備えの閨房」。大きな城を目前に、少女たちは何を思ったのでしょうか

備えの閨房(Prepatory Chambers)直訳だと準備の部屋

周りには血の薔薇が咲いており、「血」と「茨」の信仰を色濃く反映しているのが伺えます。横には閨房がいくつもあり、その中のベッドの上で横たわる遺体には「走り書き:ネレンへ」

閨房の一つの部屋。「走り書き: ネレンへ」

「走り書き: ネレンへ」

アイテム説明は、以下の通り:

貴婦人の遺体から見つかった古いメモ。

 

「すぐに、また会えることを願います

姉より」

                                                走り書き: ネレンへ

貴婦人の瀟洒な衣装を纏うこの遺体こそが、ネレンが慕っていた姉でしょう。彼女は閨房から逃れることなく息を引き取ったようです。彼女の身に何が起きたのか?

ここの城は、血の母が住まい、姿なき母を崇める開祖の地。儀式村より血の儀式に成功した実りある少女たちは閨房に連れて行かれ、貴婦人の服装を纏い、さらなる試練を課せられます。

最初の試練は本編でも登場した、「白面のヴァレー」が施した、血の指と似ているもの。艶めく鮮血に、その爪を浸された少女たちは「血の貴婦人」として生まれ変わる。

「白面のヴァレー」が血の施しを主人公の爪にしている図。血の貴婦人の最初の試練のイメージ

「血の貴婦人」役割は後述しますが、その最初の試練で肌は異様に青ざめ、感覚をなくし、帰らぬ人となる少女は多いようです。ネレンの姉もその一人でしょう。エリアを探索していくと、やがてボスに出会います。

「血の巫女、エルサ」

「血の巫女エルサ」はローデイル地下墓の「血の司祭エスガー」と似た敵。彼女は自分の祭壇で艶めく鮮血を実りある少女に施す役割。第一形態ではレドゥビアを使い、後半から新戦灰「血の貫き」や奇跡「蝿たかり」を混ぜ、新武器「儀式の血槍」を使う

エルサは最後の試練を司っており、彼女は実りある少女を鮮血の儀式を施し、少女たちはお腹に「姿なき母」の神聖な子供を身籠ることになります。生まれ落ちる子供たちは「姿なき母」の器候補として重宝され、「姿なき母」はより良い器を通して現世に宿すことができるのです。それはマレニアが、外なる神の「古き神、腐敗」をその身に宿したように。

補足: マレニアが「古き神、腐敗」を宿したという説は、タリスマン「青い踊り子」から推測できるとされています

青衣の踊り子を象った布人形
とても古い、伝承の遺物

装備重量が少ないほど、攻撃力が高まる

青衣の踊り子は、妖精であったという
妖精は、盲目の剣士に流水の剣を授け
古き神、腐敗を封じたと伝わっている

            青い踊り子 (エルデンリング)

繊細に紡がれた無垢金の針
ミリセントが、その身体から引き抜いたもの
邪な血の跡はなく、僅かな露に湿っている

外なる神の干渉を避けるための呪具であり
不治の宿痾、腐れ病を抑えるという

…私は、マレニアに返したいのだ
かつて彼女のものだった意志を
朱い腐敗の呼び声に、人として抗う矜持を

           無垢金の針・ミリセント返却時

上記より、青い踊り子がかつて封じたとされる外なる神「腐敗」が存在しており、生まれながらに腐敗と親和性の高かった神人のマレニアは「紅い腐敗の呼び声」に苛まれながらも最後は人の矜持を失い「腐敗の女神、マレニア」になった示唆されています。

「姿なき母」の子供を身ごもる最終試験を乗り越えた少女の像

そして、胎生の間へ

エルサを倒したあとに続く道は、「胎生の間」にたどり着きます。

胎生の間 (Delivery Hall) 直訳だと「出産の本堂」

奥には、この儀式を成功させた「血の貴婦人」が「血の母」と成り、集まっています。ですが、彼女たちは例外なく肌が異様に青ざめ、目は血眼で赤く、身体から角のような異形が飛び出し、細く痩せこけ、辛うじて生きているのがやっとな痛々しい姿です。

血の母(血の貴婦人の進化後)。血の巫女が「血の挿入」を血の貴婦人に施した末に選ばれた少女たちが「血の母」と成れる。「血の教会」で会う「血の貴族」と同じように忌み鬼の角が身体から生えている

しかし、その誰もが不完全な「血の母」であることにまだ話せる血の母から聞けます。失敗作だった彼女たちはこの胎生の間で放置され、死ぬ定めだそうです。そんな中、奥の部屋から鼓動を感じます。前へ進んでいくと、たった一人、「姿なき母」は出産に成功したようです

真実のゆりかご

成功した「血の母」

最終エリアとなるこのマップは、多くが肉塊で覆い尽くされ、蠢いています。

「血の母」は下半身の肉塊を愛でるように慈しみ、コウモリが歌っていた音程の子守唄を歌い聞かせている

血の母に近づくと、最終戦闘の合図になります。

マルゲリータ、血の淑女」(Lady Margherita) 彼女は「真実のゆりかご」(Cradle of Truth)のエリアと同化しているので、身動きが取れない。エリア中に湧く彼女の分身がプレイヤーに襲いかかる

自分の子をかばう母の苛烈さは、いつだって熾烈を極めるもの。彼女はすべての術をもってしてプレイヤーが姿なき母の器に近づくのを防ぎます。彼女は身動きがとれないので、自分の分身を作り、複数戦でプレイヤーを袋叩きにしてきます。

そして激闘の末、ようやく勝利したプレイヤーは奥に進んだ先は...

マルゲリータを倒したあと、鼓動する心臓に近づくプレイヤー

星の子、血の星

奥の蠢動する奇跡を目の当たりにするプレイヤー。近づくと、そこから血の炎が噴火し、辺りを焼き払い、星の子が現れます

血の星 (Blood Star)

「血の星」は姿なき母を体現する器。モーグゥイン王朝のような血の炎が周りに咲き乱れる。腕は四本あり、血炎、掴みをする腕、近接に特化した腕、刺突を中心とした血の放射物を飛ばす腕に分かれている。

血の星とは、魔術「罪の茨」や「罰の茨」のフレーバーテキストに出てくる単語。

追放された咎人たちの、異端の魔術
学院が最も忌み嫌うもの

罪の茨で自らを傷付け
周囲に、渦巻く血の大茨を召喚する
3度まで、連続で使用できる

茨でその瞳を潰された咎人たちは
永遠の暗闇で、血の星を見出したのだ

                  罪の茨(エルデンリング)

追放された咎人たちの、異端の魔術
学院が最も忌み嫌うもの

罪の茨で自らを傷付け
地を走る血茨を召喚し、敵を足元から刺し貫く
連続で使用することができる

茨でその瞳を潰された咎人たちは
永遠の暗闇で、血の星を見出したのだ

                  罰の茨(エルデンリング)

永遠の暗闇で見出した「血の星」とは「姿なき母」の器であり、「血の母」が産み落とした星の子であるということが最後にわかることになります。

そして、血の星を倒した時にもらえるアイテムが「血纏いの割れ雫」

血纏いの割れ雫 (Bloodburst Cracked Tear) 

黄金樹の恵みが降り注ぐ地に
永き時の末に生じた、結晶の雫

「霊薬の聖杯瓶」に配合し
一時的に、血攻撃力を高める

            血纏いの割れ雫

エピローグ

すべてが終わったあと、ギデオンにこの血の儀式と犠牲の風習を伝えると、「悪い冗談だ」と一蹴されます。

ギデオン「…ほう、母なる密教とやらは、ずいぶんと誇大妄想に取り憑かれた愚か者が祭り上げたものらしいな。悪い冗談だ。幸いにも、とうの昔に黄金律は奴らを処理したよ」

しかし、これでは貴婦人たちがなぜ蝙蝠の老婆に変わってしまったのか、明確な答えは得れません。その話を理解するには、このDLCで見つかるアイテムの説明文が鍵になってきます。

「贖罪の茨」「失われた王朝」「血の貫き」

血の星を崇める咎人たちの、異端の魔術
学院が最も忌み嫌うもの

贖罪の茨で自らを傷付け
対象の頭に、血の大茨を召喚しその瞳を潰す
3度まで、連続で使用できる

痛みなくして、真実は知り得ないものだ

                贖罪の茨(エルデンリングDLC)

放浪の画家の作品のひとつ
「失われた王朝」と題された絵画の記憶

その画家は、永遠の女王マリカがその地を呪い
死して消えゆく者たちの 最期の景色を描くという

今でも、その絵が描かれた場所にいけば
画家の霊と、最期の名残が見出せよう

                      絵画:失われた王朝(エルデンリングDLC)

武器に戦技と属性を付与できる戦灰
付与戦技は以下、付与属性は「血」

戦技「血の貫き」
血の巫女エルサが使う母なる密教の禁術
刀身に自らの血を纏わせ、激しい出血を強いる

刺突可能な武器に使用できる
(特大を除く)

          血の貫き(エルデンリングDLC

上記のアイテム説明文から示唆されるのは、黄金律は血の子供について知り、姿なき母の器となることを危惧したと推測されます。黄金律(引いては、律を率いる大いなる意思)はすでに永遠の都、ノクローンを滅ぼすために外なる神のアステールを送り込んだのはテキストで語られる有名な話です。

永遠の都の僧たちの絹のフード

太古、大いなる意志の怒りに触れ
地下深くに滅ぼされた、ノクスの民は
偽りの夜空を戴き、永遠に待っている
王を。星の世紀、夜の王を

        ノクス僧のフード(エルデンリング)

黄金樹に刻まれた
暗黒の落とし子、アステールの追憶

指読みにより、主の力を得ることができる
また、使用により莫大なルーンを得ることもできる

遥か彼方、光の無い暗黒で生まれた星の異形
それはかつて、永遠の都を滅ぼし
彼らから空を奪った、悪意ある流星である

        暗黒の落とし子の追憶 (エルデンリング)

であればこそ、大いなる意思は他の外なる神(血の星)が干渉することを恐れ、貴婦人たちとその密教を滅ぼそうとしたのは想像に難くありません。そうして、母なる密教の信者たちは世界に散り散りになったのでしょう:

  • 黄金律のマリカは貴婦人たちを老婆蝙蝠へ変える呪いを施し
  • 血の貴族たちは北の地に流刑にされ
  • 咎人たちは黄金律とレアルカリア学院の両方から追われ、原理主義者は迫害され火の巨人信仰と統合されるようになり

そうして、狭間の地の多くの歴史が、黄金律に抹消されたのです。今の狭間の地で見つかる老婆蝙蝠は痩せ衰え、血の魔術を封印され、自分たちから奪われた母性について悲しく歌うしかありません。

そう、双子の忌み子のモーグとモーゴットが生まれ、姿なき母をまた蘇らせようとするまでは... あるいは、繭の中に未だ覚醒せずにいるミケラがその役を担うかもしれません。

おわりに

いかがでしたでしょうか。去年に描き始めた記事が遅れに遅れて脱稿となります。Eugenia Lysaさんはその間にまた大規模な二次創作DLCを作り、聖トリーナ(ミケラ)をフォーカスしたティーザーも投稿しています。Lysaさんの次回作に乞うご期待ください。

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